まあるくて黒いものが、キューちゃんちにやって来たのは、年末のことでした。
お母さんが、真ん中のおへそのところを押すと、ぽんぽん、と言って動き始めます。
キューちゃんのほうへ、突然、平気で向かってきたりします。
「お掃除してくれるんだよ。犬の毛もしっかり拾ってくれるから助かるわ」
お母さんはとても気に入ったみたいです。
「やっぱり、ブラシタイプでなくて、ローラタイプで正解だった。ブラシに毛が巻きついたら大変よ」
椅子を机に上げたり、カーテンをどかしたり、ルンちゃんのお世話ばかりしています。
「かえって前よりも、お母さんの仕事がふえたみたいだ。ほっておいたら、自分で考えてやれるみたいだよ」
お父さんは、見ているだけで、何にもしてあげません。
「キュートはやきもちを焼いてるのかなあ。動き回るから、生きものだと思っているかもしれない」
「うん、でも追いかけ回して、舐めたりしているからね。好きみたい。きっと妹と思っているんだよ」
この頃では、ルンちゃんの始動が、老夫婦の毎朝の習慣になってきました。
「外から部屋の中をのぞいたら、誰もいないのに、黙々と掃除してた。陰ひなたなく働いてる。たいしたもんだわ」
怠け者傾向がたくさんあるお父さんは、すっかり感心しています。
「止めると、悲しそうな声を出す。よっぽどお掃除したいのね。キューちゃんが心配そうに駆けつけるよ」