キューちゃん、脱走じゃないから
「このひどい雨では、ハウスさんぽしかないな。行ってくるか」
昨日の朝、お父さんはわたしキュートを抱き上げると、ビニールハウスまで連れて行ってくれました。
わたしはうれしくてうれしくて・・・、ハウスじゅうを駆け回りました。トマトの残がいを拾い食いもしました。
「スリスリまでして、埃まみれだ。もうお家に帰るぞ。おいで・・・。来ないなら置いてくぞ・・・。もう、勝手にしろ」
お父さんは、ハウスのドアを閉めると、お家へ戻ってしまいました。
しばらくしてからのことです。
「あれっ、キューちゃん、どうしたんだ。どうやってハウスから出て来たの?どこからもでられるはずないのになあ」
お父さんがハウスに迎えにいくため、お家の勝手口扉を開けた時、わたしはそこにいたのです。
「おいで、お家に入ろうか」
もちろん、わたしが簡単に捕まるわけなどありません。
「あゝ、また脱走ごっこか。かなわんな。まあ、行くところはわかっている。いつものコースだ。その前に、ハウスを見てこよう。どこから外へ出たんだろう。」
お父さんはぶつぶつ言いながら、ハウスを見に行きました。
「出入り口が開いてる。水遣りホースのすき間に、鼻を突っ込んで開けたんだな。これだけのすき間があれば、通れるのか。デブになったくせに」
まったくもう、どさくさに紛れて、余分なことまで言ってましたよ。
「追いかけるにしても、くたびれるばかりだ。軽トラのキーを取ってこよう。
お父さんは、玄関からお家の中に入って行って、お母さんにわたしキュートの悪口を言うと、キーを手にしました。
「あっ、キューちゃん、帰って来たの?えらいわねえ」
「えっ?ほんとだ。どこから入って来たんだろう。」
「お父さんのあとをついて来たのよね。閉じ込められたのが辛くて、追いかけて来たのにねえ」