「あっ、大名古屋ビルヂング。このビル、むかし、建てたんだった」
ある日、新聞を見ていたお父さんが変なことを言いました。
いつものことなので、お母さんは知らん顔です。仕方がないので、私キュートが、ワンとも言わず静かにお話を聞いてあげることにしました。
「と言うのは、もちろん冗談。ちょっとだけバイトで働いたんだ。ほんのちょっとだけ。」
なんだ、そういうことでございますか・・・。それで「建てた」は、大げさすぎませんか。
なんでも、学生時代に親戚から声をかけられて、配線関係のお手伝いに行ったそうです。
「10階くらいだったと思う。親戚はコンクリートをうつ前に、管をセットする仕事をしてた。資材置き場に、言われた資材を取りに行ったりしてたのを覚えている。」
「むき出しのコンクリートで、結構下まで見える所もあって、怖かったなあ。あんまり、役に立たなかったのは、まちがいないだろう」
それはきっとそうだったと思いますよ。
「老朽化を理由に建て替えとある。『寂しいね。でも、よく50年もったよ。』と当時建築に携わった人が言ってるそうだ。
これっていつも思うんだけど、50年でどうしてダメになるんだろう。ヨーロッパの建物って、数百年前のものを今でも使ってるみたいだ。
日本の木造住宅でも、25年も経ったら不動産としての価値はなくなると言うもんなあ。」
お父さんはなおもぶつぶつ言ってます。
「よく50年もった、というのはなんだろう。そうか、少ない資金でやっと建てたと言うことかな。」
「住宅だって、ローンを使ってやっとこさ建てるのはもたないだろうな。25年過ぎたら、誰でもだいぶの歳だ。本当は建て替えたくても年金では大変なのに。日本人はそういう人生の繰り返しかもしれない。」
「数百年もっているヨーロッパの建物というのも、資金に余裕があって建てたものだけかもしれない。まあ、日本は材料も気候も長持ちしないようになっている、というのもあるかもしれないけど・・・。でもやっばり変だ」
「それよりも、昭和37年10月に第1期オープンとある。バイトしてた時、部分的にでもオープンなんかしてなかったぞ。違うビルだったかもしれない。50年近くも前の話だもんな」
なんとも、好い加減なお話でした。