中村哲医師から聞いた話
「ある時、足にできものができたお母さんを、診たことがありました。」
もう20年以上も前のことです。
講演会で、そんな話を聞いたことがありました。
講師は、中村哲先生でした。
概略、次のようなお話でした。
「一目で皮膚ガンとわかりました。
足を切らなければ、命に関わると伝えました。
ところが、手術を断られてしまいました。
『もし、足を切ってしまえば、谷底まで水を汲みに行くことも、できなくなる。
それどころか、家族みんなに負担が行って、家族みんなの生活も立ちいかなくなる。
わたしがこのまま死んでいくしかないと思います。』
そう言って、お母さんは帰って行きました。
あとで、現地のスタッフに尋ねました。
どうして、あんなにひどくなるまで、診療所に来なかったんだろう。
『先生、あの人はここから歩いて1日かかるところで、暮らしているんです。
やっとの思いで、来たのでしょう。』
スタッフは、そんなふうに答えてくれました。」