40年前は
「こっちのほうは昔からよう来とる。」
ブルーベリー摘みに訪れたお客さんが言いました。
もうなんども、毎年のように来てくれるお客様です。
「前は釣り、イワナだ。この脚では、もう入れんようになったでなあ。」
「ふーん、売木ですか。どこですか」
「いや、この辺りだと、信玄の塚のとこだわ。左に入っていく」
「ああ、根羽の。あんなとこに川があったかなあ」
そう言えば、沢があったようにも思えます。でも、小さくて水だってほとんどなかったのではないのか。
「40センチくらいのが釣れたわ。それと王滝から入ってった三浦のダムのほう」
「木曽の…。三浦ダムって、ものすごい奥のほうでないのか。」
「庄内川くらいの川幅の川が3つもある。けど、そこではなしに、支流に入った」
ダムの上がそんなに広い川のようでした。やはり大きなイワナが釣れたようです。
「40年くらいも前のことだわ」
計算してみると、昭和の終わりころの少し前のことのようです。
「御岳が噴火した頃ですか。有史以来の噴火と言ってた」
「そう、前の時の噴火だ。その噴火の前とかあととか。よう釣れたし、よう行ったもんだわ」
やはりここでも、大きな魚は、むかしの世界にだけ、生きているようでした。