自作マシーンのなごりは今も
「簡単ですよ、作ってみなさいよ。材料は、電動ドリル、ラジコンカーの車輪、ビニールパイプくらいのものです。」
ある時、練習試合に行った先で、生徒たちが卓球マシーンを使って練習をしているのを見ました。どんどんピン球が送り出され、生徒たちが順に受けながら、とてもリズミカルに動いていました。
あんなのがあったら、ずいぶん上達するだろうな、と思いました。どうしても欲しいと思いましたが、もちろん、学校が買ってくれるわけはありません。
ピン球だって乏しくて、へこんだら、やかんの湯の中に入れて、ふくらまして使っていた時代でした。リサイクルなんていうと聞こえはいいけど、変なバウンドのする魔球だらけの世界でした。もちろん、私財を投げ打つにしても、何十万円もの大金が必要でした。
ところが、近くまで行ってみると、なんとなくマシーンの感じが変です。良く見ると、手作りのようでした。
「買えるわけなんか、ありませんからねえ。子どもたちも楽しんでやりますし、根気良く練習するからいいですよ」
それで、さっそく材料を買いに行きました。電動ドリルはかなり値が張りましたが、「目指せ県大会」であれば、仕方がありませんでした。
ラジコンカーの店には、そのとき初めて入りました。そういう店に、普段から出入りするような人間だったら、もう少し完成の可能性はあったかもしれません。
「おかしいですねえ。それでうまく、ピン球が飛び出す筈なんですけどねえ。」
どんなに工夫してもピン球が飛び出さなくて、電話をかけたら相手の顧問の先生は、そう言いました。うまくできないほうがおかしい、という口ぶりでしたが、それでもピン球が飛んでいくことはありませんでした。
あとになって、その顧問が技術の先生と知って、少しばかり傷ついた心を癒すことができたものでした。
「先生、僕たちが完成させましょうか」
数年後、数学の授業中にその話をしたら、生徒たちから熱い申し出がありました。
「先生は50分のうち、30分は雑談だ。」と言った生徒がいましたが、それはいちじるしく正確さを欠くというものでした。せいぜいいつも、雑談は20分位でした。その分、ずいぶんやる気でみんな授業をやったものでした。本当です。
余談はさておき、せっかくの生徒たちの奇特な申し出だったのに、聞き流してしまいました。決して、気を悪くしたからではありません。
ちょっと無理だろうな、と思ったのでした。ラジコンカーの車輪も、不燃ごみに出してしまっていましたし・・・。
でも、今思い出してみると、悔しいけれど、生徒たちなら見事完成させたろうな、と思います。惜しいことをしました。
ただ、おかげで今も、電動ドリルだけは、手元にあって、本来の目的に使用しています。