「今年は釣り大会はやらないから、日釣り代だけでいいですよ。」
確かに、玄関さきの看板には、「事前放流はありません」とありました。
でもねえ、こんなに長く禁漁にしてきたから、釣り大会並みの料金でもいいかも…。
アマゴ、イワナを爆釣したら、申し訳ないなあ、きっと釣れると思う。
大金を払っても、文句は言わないですよ。
一昨年の春、ある山奥の漁協が、「コロナのため解禁せず」となりました。
ところがなんと、去年も続けて「解禁せず。」
3年近くもの間、誰も釣り師の入らない川なんて、すごい話です。
さぞかし、たくさんの大きな魚たちが、遊んでいることでしょう。
けどそうなると、期待にギラギラした釣り師たちが、殺到するのではないかなあ。
解禁当日の早朝に日釣券を購入なんて、恐ろしく手間取るに違いない。
釣り券売りの家の人、だいぶ年上のお姉様だったしなあ。
そう思って、前日にはるばる日釣券を、買いに行きました。
でも、もうそのお姉様の家ではやってなくて、別の家を教えてもらったのでした。
3年と言う時間の経過を、実感しました。
そしていよいよ解禁の朝早く、国道を走って行くと、前を一台の車が…。
こんなに誰も走ってない早朝、もしかしてライバルかも知れない。
やがて国道から脇道にそれたので、やはりそうだとわかりました。
でも、川沿いに走って行っても、意外にそれらしい車は駐まっていませんでした。
さて、ウエーダーに履き替えて、川に降りようとしました。
ずいぶん、降り口は荒れていました。
誰も降りたりしてないだろうから、仕方がないでしょう。
何しろ老体ですので、ものすごく慎重に降りて、いよいよ竿を出しました。
けど、今年は水が多いし、木の枝が伸びてて、うまくエサを流せない。
そんな苦労をしながら、少しずつ釣り上がって行きました。
ところが、全く当たりがない。
おかしい、こんなはずではなかった。
普通はチビアマゴくらい、遊びに来るのに、それさえない…。
いつ行っても、あまり人の入らない場所とは言え、人もいないし魚もいない。
結局、1匹だけかなり大きな魚影を見かけたくらいで、いったん川から上がりました。
その後、メジャーな人のいそうな場所に移動。
「あかん、全然おらん。社長だけ、3匹だわ」
「イクラに寄ってきたけど、食わんと逃げて行く」
「稚魚放流も何も、して来なかったんだなあ」
空き地で、キャンプみたいに、湯を沸かしている2人組に、出会いました。
3匹釣れたという社長は、まだ川にいるようでした。
軽ワゴンの後ろ扉が開いていて、棚には釣り道具の類いが、しっかり並んでいました。
相当の渓流釣りプロたちで、あちこち釣り歩いているようでした。
自分のようなヘボ釣り師が釣れなくても、納得でした。
「もしかすると、と思ってきてみたけど、やっぱりあかんかったなあ」
まったくです。
ここへ来なかった釣り師たちは、どうやって釣れないと知ったのだったでしょうか。
それでも未練がましく、その近くで、少し竿を出しました。
ガボっと、水面に飛び出てきたのがいました。
なんと、目印に飛びついてきたような感じでした。
諦めて帰途に着く途中、2台ほど走っている釣り車に、出会いました。
オカを走っているなんて、釣れてないに決まっています。
3年前や5年前には、まあまあ釣れたのに…。
あれは、成魚放流や稚魚放流もの、だったのでしょうか。
ヒレピンもいたし、完全天然魚風のイワナさんもいたのになあ。
漁組が人手不足で、放流もままならないかもしれないことは、想像できていました。
いや、問題はそのことではない。
もしかして、お魚さんたち、自然繁殖もままならないようになってきているのでしょうか。
今更ですが、これまで多少とも釣ってきたのは、すべて人工繁殖ものだったのか。
少子化は、人間世界だけではないのかもしれない。
どこもここも人工繁殖でないと、やってけない時代になっているのかもしれない。
こんなにきれいな川なのに、魚の世界にも、何かが起こっているのでしょうか。
はて、3年近くもの間、禁漁だったあの川、再び行ったものでしょうか。